椿 昇 「P.R.O.Mの旅」

椿 昇 「P.R.O.Mの旅」


高松港のターミナルビルとして 古くから親しまれてきた建物。


「仮想・高松現代美術館」のシンボルフラッグがはためく。「小振りながら現代美術館として世界標準のクオリティー。」映像は、CO2センサーが呼気を感じて原始の海へ戻り、しばらくして 画面が次第に 進化していく。

ピー・アール・オー・エム
椿 昇
瀬戸内国際芸術祭2010
作品番号1
高松

 

Tubaki Nboru 公式サイト

P.R、0.Mの旅

 

 

私が瀬戸内国際芸術祭の参加アーティストとして北川フラム氏と香川県から、この美しい空間を持つ建築をテーマにして欲しいとの打診を受けたのが昨年の夏のことでした。その後、数度の下見をする過程で多くの方々からこの建物にまつわる話を聞きました。当初は何か作品をこの建物のテラスに置いて欲しいとの依頼もありましたが、いつしかこの建物の表皮に残された人々の記憶のようなものを、この建物全体を使って快復してゆこうと思うようになりました。

 

記憶は不思議なものです、夢のなかでは時間と距離がばらばらになって私たちを宮殿の主に招いてくれます。そのような記憶の不思議さを、この誇り高き建物に取り戻してあげたいと願いながら、まずファサードの細かいレリーフや窓といった形状を、すべて鏡によって置き換える試みに取り掛かりました。島々への入り口であるファサードは、鏡に覆われることによって、空や玉藻公園の緑を反射して空間に溶けてしまいます。この建物を100日の間、空や緑の空間に還すことで、会期のあと香川の人々にこの建物の意味を再考していただく契機になればと考えました。また、この建物は高松の現代美術館(架空の)であるという設定を行い、私が第一回のアーティストとして作品を発表するという形態を取っています。小振りながら現代美術館として世界標準のクオリティーを持つことを感じていただければと願います。

 

次に内部をご説明します。この建物に残されたあらゆる痕跡を多様な手法で再生するプロジェクトとなっています。まず、全体をホワイトで塗装し、天井の照明や時刻表や地図、また理容室「キタジ」など人々の記憶に残された形状はできるだけリアルに残すことを考えました。よって現状にはほとんど手をつけずに改修をしています。また大きな観光地図などは、そのまま白く塗装すればすべてが消えてしまうため、正確に文字を拾ってシルクスクリーンで製版し、 黒で手刷りした上を絵画としてのテクスチュアを入れて描画しています。

 

次に映像のご説明です。この映像は建築の内部に残された惨みやガラスなどを写真撮影したものをランダムに投影します。この映像はすべて内部に残された痕跡から採集しました。また画像認識と二酸化炭素という二つのセンサーが、この映像をリアルタイムに動かしています。画像が溶けて流れるのは内部の鑑賞者の姿をセンサーが認識するからです。また荒れた海の映像は、丸い小さなCO2センサーが観客の呼気を感知して800ppmを超えた時に現れ1000ppmを超えると、建物も海岸の構造物もすべてが消えた原始の海が登場します。建築を鏡でリアルに消しながら内部の映像でバーチャルに建築を消すという二重の消去がこの作品の狙いとなっています。

 

注:センサーに息を吹きかけるとあっという問に3000ppmを超えますので、 前でゆっくり立ち話をする程度でお楽しみください.

 

また赤のフラッグは、私が2003年に水戸芸術館で開催した「国連少年」で構想した模擬国連軍の作品のシンボルで、黒はパレスチナのアルカサバ・シアターの舞台美術で構想した「根源的な対話」のシンボルです。紫のフラッグは「仮想・高松現代美術館」のシンボルフラッグで、マークはこの建築の3階踊り場に残っていたレリーフから引用しました。

 

様々な記憶、建築と人の関係などこの作品を通じて思いをめぐらせていただければ幸いです。

 

椿 昇
2010年7月19日

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瀬戸内国際芸術祭2010作品番号1 椿 昇「P.R.O.Mの旅」
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